SSS●Materials SSS英語多読研究会

SSS多読クラス授業見学会&意見交換会
平成13年11月29日(水) 於 電気通信大学東6号館 会議室

多読を中心とした英語教育についての
質疑応答と意見交換の報告

 参加者は、午後4時15分〜5時45分の間、電通大のS先生の多読クラスを見学した。その後、会議室に移り、午後6時〜7時10分の間、授業についての質疑応答および意見の交換が行われた。

 最初に、SSS英語学習法研究会事務局長古川昭夫が、SSS英語学習法の目的とその普及活動について次の様な説明をした。

『現在高校・大学では、「先生が講義し、難しい英文を少しだけ精読する」英語教授法が主流です。SSS英語学習法は、全く違った観点に立ち、英文を大量に多読することにより、生きた英語を身につけようという学習法です。といっても、最初から難しいものは読めないので、とにかく最初はやさしい文章をたくさん読むということになります。具体的には各社から出版されている Graded Readers と呼ばれる、200語、300語という限られた語彙レベルで書かれた英語学習用の本を大量に読むところから始めます。頭の中で日本語に訳さず、英文のまま理解する習慣をつけ、読書スピードを上げていきます。一分間に 200 語程度のスピードで読めるようになったところで、単語レベルを上げます。そして、少しずつ難しい本を読むことにより、語彙力を身につけてゆきます。私達は、やさしい英文を100万語読むことが、英語力の基礎を作る最も効果的な方法であると主張しています。現在、数十名の生徒・学生が100万語読書を達成し、ペーパーバックを楽しんで読むようになっています。酒井先生は現在電気通信大学において、大学生に多読による英語学習の授業をしている他、高校生・社会人のクラスも指導されています。SSS英語学習法研究会はWEB上でも多読学習法や各社の Graded Readers を紹介し、他の各種教育機関にも課外授業に多読学習を取り入れることを呼びかけたりして、その普及に努めております。』

引き続き、SSS英語学習法研究会常務理事河手真理子が、当日受講生に行ったアンケートの内容およびアンケート結果について説明した。午後6時15分、授業を終えた担当の先生がかけつけ、質疑応答を開始した。回答は、主に担当の先生が行い、古川・河手が補足する形で行われた。

Q:
漠然とどんな本を読んだら良いのかを質問する学生はいないのですか?

A:
この10月から始めた新規の学生の場合は、いませんね。レベル分けした本の中から各自好きな本を読んでいます。継続の学生の中には、「1冊読んで気に入った作者の他の著作を読んでみたいけれど、どんな作品がありますか?」などの質問はあります。

Q:
タームの途中で授業に出てこなくなった学生はいないのですか?
A:
ほとんどいません、出席点で単位が貰えますから。今まで、3年間この方法でやって、受講生約120名中、1人だけが、どうしても一語一語日本語に訳しながら読む方法を捨てられなくて、出てこなくなった程度です。

Q:
英文を英語のまま、日本語に訳さずに読み進めるようにさせるため、どのような方法をとるのですか?

A:
読んでいる様子を見ながら、「難しかったらやめて他の本にしなさい」「訳さないで読んでいる?」、と聞いて回るだけで足りています。学生は、「訳さなくて良いのですか?」と喜んでいます。実は学生時代、どちらかというと受験英語があまり得意でなかった学生も多くいて、それで思いの外、逐語訳や返し読みから簡単に抜け出せたのかもしれません。辞書を引かないということにも、抵抗感を持つ学生はあまりおらず、楽で良いと受け止めてくれているように思います。

Q:
辞書を引かず、日本語に訳すこともせずに、ただ読み進めるだけというのでは、自分が果たして正しく読めているかどうか、不安になる人はいませんか?そういう人には  どう指導するのですか?

A:
不安の小さいうちは、それでもとにかくどんどん読むようにと言います。そして、不安が大きくなったらその本はやめろと言います。 途中で止めても、しばらくたってからまたその本に戻ってくれば、すらすらと自信を持って読めるようになっているものなのです。

Q:
冠詞や前置詞がどう使われているか?などに注意を払わずに、ただ本のストーリーを追うだけで、正しい英語が身につきますか?

A:
大量の正しい英文に触れることにより、身につくだろうと信じています。文法的な規則を覚えることにより、冠詞の使い方をマスターしようとする今までの方法は、例外が多くなりすぎて学習法といえるまでになっていないのです。今までの方法で、正しく冠詞が使えるようになった人が果たして何人いたでしょうか? いなかったのではないかと思います。ですから、別の方法でやってみるしかないでしょう。

Q:
辞書を使わず、ただ多読をするだけで語彙は増えるのでしょうか?

A:
200語〜700語レベルの本には絵も多いですし、さまざまな場面で同じ単語に出会っていくことで、殆ど100語も知らなかった学生が、多読のみで1000語レベルの語彙力まで上がってきた例があります。

Q:
多読することで読めるようになるとしても、リスニング力はどうなるのでしょう?

A:
以前の学生で、音の訓練を全くせずに、多読のみでリスニング力が向上した例があります。それは英語を英語のまま、文の先頭から理解する力がついたため、読むだけでも結果的にリスニング力がついたということです。今はより高いリスニング・スピーキング能力をつけるため、映画やテープを使って、耳から英語をとりいれてもらったり、シャドウイングの訓練も行っています。

ここで、古川が、SSS英語学習法研究会を代表して、「オリジナルのカセットテープは、ビス止めがしていなく、壊れやすいので、出版社に善処を求めたい」旨の要望をしました。出版社側を代表してオックスフォード大学出版局の鈴木氏より、「マスターテープ1本につき、サブマスターを1本コピーすることは認めている。サブマスターが壊れた時には、マスターからサブマスターを作って頂いてよい。」との発言があり、ロングマン・ケンブリッジの方も、サブマスターの作成はかまわないという認識を表明されました。 

Q:
今日の授業を受けている学生たちは、英検2級レベルの人が多いようだったが、その人たちが200語レベルの本から読み始めるのならば、英検1級レベルの人の場合は、どんな本から読み始めるのが良いですか?

A:
電通大では、200語未満のレベルの絵本、これは、ピンクのシールを貼っているのでピンクレベルといっていますが、このレベルからやっています。 英検1級レベルでも、一番易しい本から始めるのが望ましいと考えます。というのは、英検1級レベルでもまだ英文を1語1語読んで、日本語に素早く翻訳しながら読んでいる方がいるからです。それでは英語で読んでいるとは言えません。多読をするには、英文を単語数語の意味のまとまりで捉え、目を3回動かすくらいで1行読めるように練習する必要があります。ジャパンタイムス社の英語研修では、どんなに英語の出来る人も、一番易しいレベルの本から多読の訓練をしていると聞きます(http://homepage1.nifty.com/samito/easy.htm)。まずは、全部知っている単語で書かれている本をスピーディに読むことで、速読力が付き、基本的な単語がいろいろな場面で使われているのに接することで、単語のニュアンスを感じ取ることができます。

Q:
単語レベルというのは、どのように定めているのですか?

A:
各出版社がそれぞれ独自に、頻出単語を分類し、200語レベル、300語レベル、或いはレベル1、レベル2、などと表示しています。今日は各出版社の方が来られていますので直接説明していただけますか?

オックスフォード:
基本的には、エージ・レベル毎に、オックスフォード独自のワードリストを基に定めている。例えば、同じ400語でも子供と大人では使用語彙が違う。各社とも基礎となっているのは、マイケル・ウェストのワードリスト(Longman刊)ではないか。

ペンギンロングマン:
語彙リスト:British National Corpus (ブリティッシュ ナショナル コーパス)を含むロングマンのコーパスネットワーク(データベース)を基に作成。
文法のガイドライン:EC教育委員会の指導要綱およびロングマンから出版されているコースブックのシラバスを参考に選定。

ケンブリッジ:
ケンブリッジ大学のコーパスから使用頻度を考慮して選定しています。

結びとして担当の先生より、学生用ホルダーの紹介とそのホールダーが卒業まで保存されるシステムなどが説明された。また、3ヶ月のタームで身につくのは読書習慣だけであって、英語力の向上には授業後も継続的に100万語程度は、読みつづける必要があることを強調した。 

質疑応答後、出席者が感想と意見を述べた。(敬称略)

岡田(YOHAN):
思っていた以上に学生たちは真剣に読んでいた。本に書きこんである一行感想文は、単語レベルの低い本に多いようだったが、「難しかった」などの書きこみは少なく、内容を読み取ったと推定される感想がたくさんあって、良く読んでいるのだと思った。

白川(ALC):
ハリーポッターを読んでいる学生がいた。かなり難しい本なので解って読んでいうのか聞いてみたところ、「一文一文は訳せないけれど、ストーリーは解る」と答えてくれたのに驚いた。

渡辺(ALC):
ふんだんに本があり、好きなものを選んで読める環境が素晴らしいと思った。

門田(日本実業出版):
10月から始めた学生達は、ストーリーの短い本をいろいろ読んでいた。一方、継続している学生達はかなり厚くて難しい本を集中して、しかも楽しんで読んでいるように見えた。

橋本(SEG):
指導のうまさに感心した。社会人クラスもぜひ見学したい。

小田(トマティス):
新規に始めた学生で、たくさん読んでいた人がいたので、「英語が好きなのですか」と尋ねてみたら、「英語の勉強は嫌いだけれど、英語の本を読むのは面白い」という答えが返ってきた。英語の勉強が嫌いな人にも、多読という英語教育法が適していることが分かった。

中野(トマテイス):
今時の学生達がとても集中力があることが驚きだった。

服部(トマテイス):
「読みやすい本と読みにくい本がある。英文のリズムの良いものは読みやすい」と言っていた学生がいて、文字からもリズムを感じる人間の機能に驚いた。耳からの訓練と同時にSSS方式を平行して始めれば語学学習として効果的だと思った。

マイク(SEG):
学生が何のために英語を勉強しているのかもう少し聞きたかった。

鈴木(Oxford):
もっとイラストをたくさん入れて欲しい、イラストの絵が怖い、などの読者の生の感想が聞けたことが有意義だった。

池田(SEG):
「disasterという単語は自然の災害に使うのだと思っていたけれど、この本を読んで人災にも使える単語だと解った」という書き込みのある本があった。辞書を引かないで一冊の本を読み通した後に、単語の意味を知ることはすばらしいことだ。どうやって、普通の授業に取り入れていくか、いまのところ想像がつかないが、今後の研究課題にしたい。
渡辺(早稲田大学学生):
多読による英語学習を薦める人は他にもいるし、良い方法かもしれないが本が高いことが一番ネックだと思う。

高橋(広真アド):
難しい本を読んでいる学生に、もっと易しい本にかえさせるだけで授業が成り立つのか、と不思議に思って見学に来てみたけれど、本がたくさんあれば、好きなものを選んで集中して読むことができ、授業になるということが分かった。

芦川(Longman):
酒井先生のようなすぐれた指導者にGraded Reader の有効な利用方法を広めていただいて、全国の高校、大学で読まれるようになれば、日本の英語教育の新しい流れになる。

成瀬(Longman):
易しい本を読み終えることで達成感を感じ、自信がつくことを実感した。この授業方法が日本の英語教育が変わるきっかけになることを願っている。

マーク(Cambridge):
Extensive Readingという指導法をとる先生の殆どはEnglish Speakerで、今日は日本人の先生の授業を初めて見て興味深かった。

なお、質疑応答中、SSS事務局から、本の裏表紙に貼る単語数ラベル用紙、および読書記録ノートのサンプルが配られた。

質疑応答終了後、SSS事務局の方から、ロングマン・オックスフォード・ケンブリッジ各社に多読推進のプロジェクトへの協力要請がなされ、各社とも協力の意志を表明した。また、その際のとりまとめ役は、洋販が適切であるとの意見を各社が表明し、洋販としても前向きに検討するとの意見が表明された。

SSS英語学習法研究会 佐藤 記